========================================食品工場長の仕事とは===

■■   赤福物語(フィクションです)

■■■                            2007年10月20日発行 

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おはようございます。河岸です。「赤心慶福」の真心を尽くして人の幸せを祈る。

と言われる言葉の中から「赤福」と付けられたと聞いています。「赤福」はおみ

やげの老舗でありおみやげは大切な人の顔を浮かべて買って買える物です。

一番大切な人におみやげとして買って買える物が非常に信じられない内容で

製造されていたとしたら怒るに怒れない気持ちで一杯です。

 何故、「赤福」がこのような自体になってしまったかフィクションで考えてみま

した。あくまでも私の想像です。

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 赤福物語(フィクションです)

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 あるところに20年に一度本殿を建て替えるときには大勢の参拝客がお参りに

くる神社がありました。参道には多くのおみやげ屋さんがならんでいます。その

中でも300年の歴史を誇る和菓子屋さんはお参りをした方が必ずおみやげに

買って帰るほどの名産になっていました。参道の本店に行くとガラス越しにあん

この上を指で綺麗になぞっている製造工程を見ることができました。

 参拝客のおみやげだけではなく新幹線のおみやげ売り場、キヨスクのおみや

げ売り場にも毎日毎日当日製造日付の商品が並んでいて、何時も出来たての

お菓子を買って行くことで出張のおみやげに必ず買って帰る方も多くいたのです。

 新幹線に乗るときに小腹が空くと一人では食べきれませんが二人ではつまみ

ながら帰るときには丁度いいつまみにもなっていました。

 ある日突然、保健所の方から営業禁止処分が出てしまい、二度と指でなぞっ

たあんこの和菓子は食べることが出来なくなってしまいました。どうして営業許

可が禁止になってしまったか理解することが出来ないので床の間の前に座って

昔の事を少しづつ思い出してみることにしました。

 戦争中の物資の不足するときなどは、和菓子用の原料が手に入らないので

「美味しい物をお客様に届けることが出来ない」と思い、生産をしばらく休んだ

事もあります。

 戦後に参拝が自由にいけるようになると参拝客も多くなってきました。しかし、

参拝客が多くなって仕込み量を増やすと原料が余ってしまう日もでてきました。

いままではあんこも朝早くから煮て、お餅も朝早くから蒸していました。その日

に造ったものをその日にお菓子にしていたのです。

 「あんこは腐らないのだから前の日に煮たものでも問題が無いよ」何処からか

声が聞こえてきました。

 「次の日になってもお餅は美味しいよ、毎日朝早くから蒸すことも無いよ」こん

な声も聞こえてきました。

 ある日から、早朝からあんこを煮ていた、お餅を蒸していたことを止めてしまい

ました。それでもお客さんから美味しくなくなったという声は聞こえて来ませんで

した。

 ある日大雨が降って参拝客が非常に少ない日がありました。前の日のあん

こが大量に余ってしまいました。

 「次の日に少し混ぜても判らないよ」こんな声が聞こえてきました。

 ある日から、余ったあんこを次の日に半分まで混ぜて使用することが始まっ

てしまいました。それでもお客さんから美味しくなくなったという声は聞こえて

来ませんでした。

 JR等のおみやげ屋さんに大量に販売するようになると、生産が間に合わな

い日が出てきました。逆に雨の日などは売れない日も出てきました。生産の

量が毎日毎日安定しないで、お菓子を作る方の出勤が安定しなくなってきた

のです。

 「この冷凍設備を使えば、作りたての味を保つことが出来ますよ」、工場に

冷凍機械屋さんが冷凍設備を売りに来たのです。

 「毎日製造しないとお客さんをだますことにならないかい」

 「どこのお菓子屋さんも導入していますよ。今時毎日注文量を製造してい

るお菓子屋さんなんてないですよ。手作りケーキの洋菓子屋さんも導入して、

ケーキの種類を増やして売上を上げている所もありますから是非導入して

ください。

 「保健所は問題ないの」

 「賞味期限、消費期限は製造メーカーで自由に決められるのだから全く問題

ありません。心配なら保健所に聞いて見てください」

 「そうか、じゃ導入しようか」

 忙しい時は、毎日、毎日早朝から製造していた工場は毎日安定生産が出来

るようになりました。

 「さすが現代の冷凍技術は違うな。」冷凍したお菓子を解かして販売する日が

続きました。それでもお客さんから美味しくなくなったという声は聞こえて来ませ

んでした。

 東京オリンピックの頃、販路を増やしていくと、当日に販売店で売れ残った商

品が目立つようになってきました。昔は、すべて売り切れてしまいましたが、おみ

やげ屋さんに大量に陳列を始めた頃から、売れ残りが目立つようになってきました。

 「なんで捨てているのですか」

 「昨日の返品商品ですから」

 「返品で戻ってきたものでも、餡と、お餅を分けて、次の日に混ぜればまだ使え

ますよ」

 「問題はないのかい」

 「何処でもやっていることですよ、“再生”使用といって、不良品を原料として再

利用することは食品工場なら何処でもやっていますよ」

 「そこまで言うのならやってみますか」

 返品で戻ってきた商品を餡とお餅に分けて再利用することが増えてきました

。しかし、お餅は色がついて同じ商品に使用することは難しいので、別の商品を

造っている、親戚の工場に回すことがほとんどでした。それでもお客さんから美

味しくなくなったという声は聞こえて来ませんでした。

 「折り箱もすれることは無いよ」

 「そうだな折り箱は再利用しよう」

 返品で戻ってきた商品の入っていた折り箱は再度使用しました。それでもお客

様から折り箱が変だというクレームはありませんでした。

 「なんで餡とお餅を分けているのですか」

 「そのまま使用するのは難しいからだけど」

 「包装紙をまき直せば明日使えるじゃないの」

 「そんなことして問題がないかい」

 「賞味期限は製造メーカーが自由に決めることが出来るから全く問題ないですよ」

 「そうだな」

 毎日、配送トラックから降ろされる返品商品を「まき直し」と称して、赤い包装紙

を包み直す作業が始まりました。それでもお客さんから美味しくなくなったという

声は聞こえて来ませんでした。

 売り上げも落ちることなく毎日が順調に過ぎていて、お菓子を作り続けて300年

が経とうとした年の事です。銀座に本社のある洋菓子屋さんが、賞味期限の過ぎ

た牛乳を使用しているとの報道があり、工場の中でも話題になっていました。

 「社長、うちのまき直しはもんだいありませんか」

 「賞味期限の設定は工場で自由に設定できるから問題ないよ」

 「むきあん。むきもちの使用は問題ないですか」

 「そうだな、私の工場で使用するのは止めよう。別の工場で充分使用することが

できるから」

 毎日のように、テレビでは賞味期限の書き換えが問題だと報道されるようになっ

てきました。農水に表示Gメンが設置され、電話番号が公表されたときの事です。

勇気あるかたが、笛を吹きました。

 「私の造っているお菓子を自分の子供に食べさせることはできない。毎日毎日

朝早くからあんこを煮て、お餅をついていた時代にもどりたい。」

 勇気をもって農水に電話をしたのです。

 「お母さん、テレビで言っていること、本当にお母さんがやっていたの。何時も

何時も僕にうそをついちゃいけないって言っていたのに、お母さんは僕たちにう

そを30年もついていたんだね。」

 

 赤福物語はここでおしまいです。−−−−−−−−

 サッカーで審判が笛を吹くと試合が止まります。大きな間違いをしているとレッド

カードが審判から出され試合には出ることが出来なくなります。スポーツはルールを

守って行うのがスポーツです。ボクシングをただのケンカと間違えて戦った方もいま

したが、最低のルールを守らない方はサッカー場から退場になってしまいます。

最低のルールは明文化されているルールブックだけではないのです。

 

 「法律上問題がないから。」

 「どうせお客には判らないのだから。」

 「ちょっとくらい混ぜても判らないよ。」

 

 いま、行っている作業を自分の子供に説明できるか考えてみることが大切だと

おもいませんか。

 

 

私のお話が皆さんの工場管理を、耕し続けるヒントになれば幸いです。

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